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「 街角の語り部 」

寒かった!言いたかないけど寒かった!

放置自転車監視員は朝から町田へ。

初めて会社の監視員用コートを着用したけど、それでも薄い白手袋だけでは手が痛くなってきた。

今日の相方も高木さん(仮名)。

仕事は順調に進んでくれるけど、もう二人ともブルブル。

今日から四月のはずなんだけど、季節はサンタが街にやって来そうだ。

ようやく午前中の仕事を終え、まず高木さんが食事に。

その間、1時間ドドバシカメラ前で立哨してるんだけど、腹は減って来るし寒いし^^;

ようやくランチタイム。

あと少しラマダンを耐えれば昼飯ぐらいユックリ美味いものが食える。

我慢するしかない、市営駐車場管理事務所にむかった。

あの娘いるかな?

「おつかれさま」なんだ男か…チェ。

自販機に1本50円の缶コーヒーがあったので、買ってきた。

冷え切った手、顔、あぁあ〜温かぁ〜い。

ホット缶コーヒーがカイロ代わり。

「寒いですねぇ〜」

駐車場誘導を担当している別警備会社の男性がやってきた。

「ホントに今日は寒いですねぇ、カイロ代わりに缶コーヒー自販機で買っちゃいました、1本50円です」

「え!?自販機で50円!それは安いですねえ!」

「美味しいかどうか飲んでないんで、分かりませんけど暖かければイイんです」

彼は笑って事務所内に戻ると、「コレ使いかけですけど、全部持って行ってください」。

渡されたのは使い捨てカイロ!

「ワア!嬉しい!相方もよろこびます!」ホントに大喜びしてしまった。

コンビニのトイレを借りて、両脚の太ももモモヒキの上に貼り付ける。

まだ昼休みだけど、早く高木さんにも渡さなきゃ。

ドドバシカメラ店頭に着いた。

ん?恰幅の好い男性と高木さんは話込んでいる。

路を訊かれてるのか?

チョッと離れて見ていたんだけど、道案内にしては時間がかかり過ぎるな。

ひょっとすると、会社のOBか、高木さんの個人的知り合いなのかもしれない。

「失礼します」二人に近づき声をかけた。

「高木さん、カイロもらっちゃったんですけど、使いますか?」

「ああ!使う使う!どこでもらったの!?嬉しいなあ!」

「じゃあ、高木さんパトロールお願いしていいですか」

「うん、すぐ向かう、カニさんありがとう」

高木さんはカイロを手に「行ってきます!」足早にパトロールに向かった。

さて…この男性、誰なんだろう?

歳の頃なら70歳代後半か。

会社に関連がある方なのかもしれない、失礼のないように挨拶をした。

「雨はやみますかなぁ?」

「もう上がっているようですが、雲が抜けませんねぇ」

「私はこれから靖国神社へ向かいたいんですが、何しろ歳だから万が一転んだりしたら大変ですから、どうしたもんでしょうかねぇ?」

「そうですね、今日は異常に寒いし、天候が回復した日に変更されてはいかがですか」

「やはりそうですよねぇ、実は靖国で今日行われる同期の桜”を歌う会に出席するつもりだったのですがぁ〜」

このご老体、中身は戦中一直線。

「コレを観て下さい」背広の内ポケットからパウチングされた、数枚の写真。

ん?バロン西中佐と硫黄島の栗林中将の写真だ。

バロン西の写真なんか持っているのは、そう何人もいないはずです」

え?その写真、オレSNSの日記に載せたぞ?

そして男性は私の耳元で軍歌を歌い出す。

たしかに好い声をしているが、何もそんなに耳元で歌わんでよ。

周りの人混みも不思議そうに見ている。

耳元の軍歌、いったい何曲歌ってくれちゃっただろう。

そこへ明らかに西洋系の男性が通りかかった。

男性はEnglishで派手に話しかけたが、外人さんは困ったような視線をオレにむけてきた。

ニッコリ笑って、駅方向へ向かうエスカレーターを指さすと、彼は小さく右手で了解の合図を示し去っていった。

「アレはソ連人ですね、英語が通じない。ソ連人独特の顔です、一目で分かりました」

じゃあ英語で話しかけなければいいのに。

とにかく男性の軍歌と戦争の話しは果てしなく続く。

第2次大戦から「日露戦争はね、旅順を占領したから勝てたわけですが、私は帝国海軍の参謀こそ偉大だったと思うんです!」

「秋山参謀ですか?」

「な、なに!秋山真之の名を知ってらっしゃるとは!」

司馬遼太郎坂の上の雲で知りましたし、父方の祖父が戦艦朝日に乗組みバルチック艦隊と戦ってるんですよ」

「な、なに!?お父様は?」

満州関東軍曹長です」

「な、な、な、関東軍曹長!?」

どうだ、もう軍歌やめてよ。

「では、元寇についてですがあ」

そこまで遡っちゃうの(笑)

この男性、近くで抽選をやっている女性店員さんに興味を移し、チョッと離れた。

千載一遇の好機!最大戦闘速度で持ち場を離れた。

「カニさん、カイロ温かかったよ〜〜」

高木さんがパトロールから戻って来た。

「高木さん、あの人高木さんの知り合い?」

「いや、突然話しかけられてさぁ、戦争の話になってオレも射撃を学生時代やってたから、鉄砲の話しになっちゃって終わらなくて困ってたんだよ」

なんだ、知り合いかと思って気い使っちゃったよ。

「じゃあ、今度はオレがパトロールに出るけど、まだ宝くじ売り場の前にいるから、行かない方がいいよ」

「え!まだいるの!?2時間以上だよ!?」

「戦場は泥沼化しているんだよ、高木さん」